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ジェイムズ・スタヴリディス 『海の地政学』 西洋の海洋進出史観から見た現代

  • 執筆者の写真: 悠樹 阿部
    悠樹 阿部
  • 2019年1月6日
  • 読了時間: 3分

更新日:2020年8月7日


  「リムランドの支配を通じて世界島を支配する。この大戦が終結すればアメリカはドイツおよび日本と同盟を結ぶことになるだろう。」第二次世界大戦のさなかに、ニコラス・スパイクマンは大胆にも不倶戴天の敵国との同盟を予言した。彼は戦後の国際秩序を見ることなく没したが、歴史は彼の描いた通りに進展してきたように思われる。アメリカは海洋交通の自由を擁護し、リムランド(東アジア、中東、ヨーロッパからなる、ユーラシア大陸の周辺部分)に覇権を確立することによって、ソ連を封じ込め、戦後の国際秩序を形成してきた。

 ジェイムズ・スタヴリディスの経歴は、このアメリカの歴史を体現している。海軍軍人として世界中の海で任務を遂行し、2009年から2013年まではNATOの最高司令官を務めた。

 『海の地政学』は、太平洋、大西洋、インド洋、地中海、南シナ海、カリブ海、北極海のすべての海洋について、自身の航海の経験から話を紡ぎ出し、その海の歴史を語り、現代の安全保障上の課題を提示している。自らが航海者、実務者として歴史に参画しているだけに、机上の歴史学者の論文には見られない迫力があり、トゥキュディデス(彼自身が政治家、軍人としてペロポネソス戦争に参与した)の『戦史』と同様に、我々に多くの教訓を与えてくれる。

 西洋人の歴史観と彼自身の経歴から当然のことだが、ここで語られる歴史は西洋諸国の海洋進出を基軸として、申し訳程度に「古代」としてギリシア、ローマの海戦を接木したものだ。哲学を持ち、事実を選別することは優れた歴史には必須だ。この本も一つの歴史である。――とはいえ、彼が駆逐艦の艦長としてサン・サルバドル沖を通行したとき、乗組員たちに対して、「コロンブスはこの地に平和をもたらそうとやってきた」と講義したエピソードには些か辟易せざるを得なかった。

 この書で「海の歴史」を学んだら、「陸の歴史」にも触れることをお勧めする。西洋の海洋進出と世界の西洋化を物語ってきた従来の「世界史」より以前の世界を説明するために、ユーラシアの陸上交通と帝国の統治システムに着目した歴史観を提示しているのが「中央ユーラシア史」だ。「西洋の海洋進出史」と「中央ユーラシア史」はそれぞれ完結した、相補的な歴史〔観〕だ。杉山正明、岡田英弘両氏を中心に、我が国でも中央ユーラシア史が盛んに研究され、優れた啓蒙書も出版されている。

 両方を学ぶことによって、歴史も、現代の情勢も豊かに見えてくるはずだ。例えば、現代中国の帝国主義は、「西洋の海洋進出史観」からすればマハン的な戦略として把握できるし、「中央ユーラシア史観」からすればモンゴル帝国に擬えて理解することができる。――ただし、現代中国の政権は多民族帝国の領域を継承しながら、大中華主義と漢民族ナショナリズムに取り憑かれていることが、矛盾と悲劇を生んでいる。

中央ユーラシア史の優れた啓蒙書には、例えば以下のようなものがある。 杉山正明 『モンゴル帝国と長いその後』 岡田英弘 『世界史の誕生』 クリストファー・ベックウィズ 『ユーラシア帝国の興亡』

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