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個々人の人生論の意義

  • 執筆者の写真: Hiroyuki Ohe
    Hiroyuki Ohe
  • 2019年4月14日
  • 読了時間: 3分

 知人の勧めもあり、執行草舟=横田南嶺の『風の彼方へ』という本を一読した。臨済宗円覚寺派の管長である横田老師と執行氏の対談集である。


 執行氏は「絶対負」を掲げ、横田老師は禅の教えを掲げ対話に臨む。両者ともに読書家であり、様々な書籍を上げながら様々な話題に話が及ぶ。本書にはキーワードが随時解説されており、前提の知識がなくても一読することが可能である。


 本を読む限り、随分と対談は盛り上がっているようだった。4か所で対談をし、それぞれが文庫本で80頁くらいの書き起こしになるのであるから、相当なのであろう。


 私は彼らの人生を知らないため、あくまで文章化された発言のみを見て思うことであるが、彼らの発言は、決して為政者の立場に立って政策を語るような性質のものではないことを痛感した。

 私の感覚では、「昭和の陸海軍はおかしくなった」「日露戦争後日本は調子にのった」という発言をした両人が、どうして靖國神社の靖國会館で対談をしようということになるのかがさっぱり分からない。

(しかも本書の横田氏の「太平洋戦争」という発言が何故か太字にて強調されている)


 さっぱり分からないのは、私が彼らの人生を知らないからである。彼らの人生を知るものからすれば、執行氏や横田老師が、大東亜戦争についてどう考え、若者に対してどのような考えを持っているか分かるから、彼らの発言を「誤読」することもあるまい。


 かくいう私にも恩師というべき人がいる。その人の発言を文字化すれば、普通の人ならば度肝を抜かれることがあるであろうが、私はその人の人生を知っているから何ら驚くことはない。


 本書を読んで思うところは、堂々と生き残ってきた人の発言は重たいということである。彼らが積み重ねてきた実績が、彼らをしてこのように語らしめるのであろう。彼らでなければ、この本は成り立たないであろう。


 裏を返せば、この本で語られているのは、一見人生論のように見えて、話者の人生そのものでしかない。すなわち、この本をいくら読んでも「どのように生きてみたら良いのか」という答えは出てこない。

(そして話者もそのような答えを与えることは企図していない)。


 しかし、人生論が書かれていないからこそ誰もが読むことができるのであろう。思索という活動のいわば呼び水として本書の価値は有用なのだと思う。


 私が常々思うのは、ご自身の人生を覆うような課題であれば、それをどのように克服するかもその人自身に委ねられている。

 しかし、国家全体や時代全体を覆うような課題は、社会的な活動に発展しなければ(個人的にはともかく)社会的には意味がないのである。私は、かつて弁論大会で「深夜営業しているコンビニなどなくていいではないか。不便な生活でよいではないか」と語る人を見たとき、何ということかと思ったが、その発言がその人自身の人生の歩みの発露と考え、最近はその発言の存在には納得しているところである。

 本書にも「瘦せ我慢」という言葉で(私からすれば)同種の発言が出てくる。


 しかし、それはご自身の人生をどう全うするかであり、およそ日本がどうあるべきかという話とは全く次元が異なるどころか、アナロジーで考えてはいけないことであることに留意しなければならない。

 すなわち、個々人が救われることが、社会全体が生き残ることに繋がるわけではないのである。


 私は本書を読んで、兵棋演習のように我が国の将来を考えるサークルの必要性を改めて会得したところである。今我が国に必要なのは、行動論である。

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